PS 100pieces 51-60☆51ジジジとかすかに燻る丘 陽に煽られて 熱帯びたのか ほのかに煙る風に中てられて 背中丸めて 草上に描く空 「かくとだに えやはいぶきの さしも草 さしも知らじな 燃ゆる思ひを」 ☆52 また逢えるのだもの 泣かないで 君のおもわにうつる影を 僕はみていなかった もう逢えないのだから 沈黙を守って ただ今宵の約束に駆ける君を 私はながめた 今この恋に次はない そう 同じ夜なんてない 再びに馴れる君との 底なきあいだ 「明けぬれば 暮るるものとは 知りながら なほ恨めしき 朝ぼらけかな」 ☆53 ぬばたまの夜のごと 拡がり巣食い いつか闇そのものになる 恋を恋とて放さねば 閃光にやける身のごと 溢れ焦がれて いついつまでも癒えぬ銃創に 恋を私に重ねれば 「なげきつつ ひとりぬる夜の 明くるまは いかに久しき ものとかは知る」 ☆54 変わらぬ心なんてない 当てにできないのは あなたもわたしも同じこと わたしを焦燥に駆り立てるのは 情熱絶対質量の目盛 なんて危なげに振れること だから恋を急ぐのは 永久と刹那の重さを量るため 「わすれじの 行末までは かたければ 今日をかぎりの 命ともがな」 ☆55 忘却は恵み あなたの足跡が 少しずつでも この身から消えてゆくのは 幸い 忘却は苛烈 行き交う人 誰もから知られぬ この世でもっとも辛い 無視刑 「滝の音は たえて久しく なりぬれど 名こそ流れて なほ聞こえけれ」 ☆56 海の泡 小滝の飛沫より なお儚いの 痕などつけず 去るつもりの私なの 思い出はいらない 記憶にも残さない ただ今ここで 「あらざらむ この世のほかの 思ひ出に いまひとたびの 逢ふこともがな」 ☆57 すれ違い 流れゆく 幾千の波間に それと指標を定めても 触れるのは 光陰の間隙 いま目の端に映るのは かつての苦楽を知るはずの… この夜をもまた 越え 別れ 再びを待つのか 待てるのか 「めぐりあひて 見しやそれとも 分かぬまに 雲がくれにし 夜半の月影」 ☆58 見ているでしょう? あなたの付けた傷を 私の手を通して あなたがふるった刃を 吹きそよぐ風が渡るたびに 冷たさが腕を覆い やがて決して融けない 切先をつくるの ただひとりだけが動かせる 重み 「有馬山 猪名の笹原 風吹けば いでそよ人を 忘れやはする」 ☆59 月はわたし わたしは月 はじめはあなたを 待つ友で いまはわたしも こがねいろ 闇を白銀に 瞳を金剛石に 輝らすものすべてを 彫像に 月はわたし わたしが月 かれは わたしが動かした 空白むまで居る あつき臥所で 「やすらはで 寝なましものを 小夜更けて かたぶくまでの 月を見しかな」 ☆60 天翔け逸る身をおさえ 奮えて鳴らぬ指を弾き 無理にも言葉捉えれば 名にし負う かの 音の声をきく 「大江山 いく野の道の 遠ければ まだふみも見ず 天の橋立」 |